沢井が目覚めたところで、3人は店を出た。
そろそろ帰ろうとまりあが言うと、沢井がまりあを送っていくと言い出した。
タクシーで帰るから大丈夫とまりあがやんわりと断るが、
それに気づいているのかいないのか、沢井は全く聞かずに、
まりあをタクシーに乗せて、それに自分も乗り込もうとした。
タクシーを止めて、押し問答が始まったものだから、ついにまりあが折れた。
「わかった、じゃあ、沢井クンに送ってもらうわ。」
慌てたのはサイトウだった。
そんなのダメに決まってるじゃないか。
じゃあ、俺も同じ方向だから、一緒に乗っていきますよ。
そしてタクシーの後部座席に3人が窮屈な形で乗り込むことになった。
「まりあさんのマンションって、どんなところですか?」
「女性の一人暮らしって、興味あるなぁ。」
「もしかして、誰か待ってるヒトがいるとか?」
沢井は一人で喋って、まりあを質問攻めにしていた。
サイトウにとっても気になる質問ばかりであったが、
まりあは適当に笑ったり、相槌を打ったりして、巧みに答えをはぐらかしていた。
「運転手さん、そこの角を右に曲がって。」
まりあが言った。
「その街灯のある角を左に。」
閑静な住宅街へ車は進んでいく。
「突き当たりを右に曲がって、100mくらい行って、そのマンションです。」
瀟洒なマンションが現れた。
一番奥に乗っているまりあを降ろすために、サイトウ、沢井も車を降りた。
「部屋の前まで送ります。」
またしても沢井がごね始めた。
タクシーの運転手がイライラしたように声を掛ける。
「どうするんですか? みなさん、ここで降りるの?」
サイトウは沢井がタクシーに乗らない限りは乗るつもりもない。
そしてその沢井も、タクシーに乗るつもりはなさそうだった。
「とりあえず、行ってください。いいです、ここで。」
サイトウがそう言い、タクシー代を払った。
押し問答はまだ続いていた。
「沢井クン、今日はここで失礼しよう。」
サイトウは年上の分別を見せて、沢井を連れて帰ろうとした。
「じゃあ、サイトウさんは帰ったらいいですよ、僕はまりあさんをちゃんとお部屋に送り届けるまでは帰りませんから。」
沢井のきっぱりした物言いに、またしてもまりあが折れた。
「わかったわ。・・・じゃあ、二人とも上がっていって。コーヒーくらいなら出せるから。」
初めて訪れるまりあの部屋。
マンションの最上階にあるその部屋に、いつも自由に訪れる男はどんなヤツなのだろう。
サイトウはぼんやりと思った。
そしてさっき、沢井が起きる前のまりあのキスのことを考えた。
どうして、あの時、まりあさんは俺にキスしたんだろう・・・。
もしここに沢井がいなければ、サイトウはぜひその理由を聞いてみたいと思った。
いや、沢井がいても、聞けるかもしれない。
二人をリビングに通して、まりあはキッチンにいた。
コーヒーメーカーに豆をセットして、ポットから熱いお湯を移す。
何だか身体が熱い。
さっき、どうしてわたしはサイトウにキスをしたんだろう。
そのあとサイトウが起きあがって、わたしにキスしてきたとき、
わたしはそれを待っていた。
身体中が熱くなって、あのままサイトウに全てを委ねたい気分だった。
もし沢井クンが目覚めなかったら、
もし二人っきりでこの部屋にいたら、
きっと・・・・。
サイトウさんがついてくるんだもんなぁ。
ま、さっきまりあさんとキスしてたから、
帰れない気分なのは仕方ないか。
うーん、どうしようっかなぁ。
三者三様の思惑をはらんで、夜は静かに更けていく。
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