夢のひと雫　恋の終わり、やがて始まる・・・

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恋の終わり、やがて始まる・・・

わたしたちは自然に手を繋いだ。
お互いにその瞬間を待っていたのだろう。
握手するように手を繋ぎ、それから指を絡ませた。

酔って歩く人にぶつからないよう、体をひねってよけながら、
そのバーのあるビルにたどり着いた。
外階段を歩いて昇ると、少し重い木の扉を開けた。
無口なマスターが迎えてくれて、わたしたちはカウンターに座った。
あなたはビール、私はモヒートをオーダーした。
わたしたちはずっと手を握りあったまま、話をした。
「僕たちはどこへ向かうのだろう」
あなたが言った。
あなたは結婚している。
わたしたちはいくら求め合っても永遠に答えにたどり着けない。
「わたしの気持ちは決まってる」
わたしはただ、あなたの心に寄り添いたいだけなの。
何も求めない。
何もいらない。

「分かってる。でも僕は･･･」
噤んだ唇の向こうであなたはそっとため息をつく。
あなたの繊細な指がわたしの小指にはまった小さな指輪を撫でる。
そしておもむろにわたしの手を自分の唇に近づけて、
そっと口づけた。
わたしの胸がドキリと動く。
もっと違うところに口づけて欲しい、と。
「ねぇ、わたしのこと嫌い？」
わざと明るく尋ねる。
答えは分かっている。
「嫌いなら一緒にここにいない」
「じゃ、好き？」
少し照れたように微笑んで、あなたが頷いた。
違う、そうじゃない。
わたしはあなたの口から「好きだ」といって欲しいの。
でもあなたは、わたしのそんな気持ちはとうにお見通しで、
そしてわざと口にしない。
わたしに希望を持たせるようなことは決して言葉にしないのね。
でも、そんなこと。。。
気にしなくて良いのよ。
あなたの言葉に期待なんてしないから。
分かっているから。
あなたの本当の気持ちは。
大丈夫。
そんなに警戒しなくても、わたしはあなたを困らせたりはしない。

でも一度だけ。
今夜だけは許して。
「キスしたい。」
わたしはあなたの耳元へ囁いた。
あなたは微かに、頷いた。
でもここはバーのカウンター。
隣の女性がこちらをちらちらと見ている。
「でも･･･ここじゃ出来ないね。」
まるで子供のように少し拗ねてみせる。
あなたは困ったように微笑んで、そうだね、と声に出さずに同意した。

わたしたちはどうしようもなくなって
それから店を出た。
階段を手を繋いで降りながら、わたしはわざと歩みを遅らせる。
あなたが数歩先に降りたところで、
わたしたちの目の高さが一緒になった。
「キスしたい」
わたしは言って、あなたの唇にそっと自分の唇を触れさせた。
息が詰まりそうなほど、胸がドキドキして、
なんだか初恋の中学生みたいなキスだった。
すぐに離れて、階段を下りようとしたとき、
あなたはわたしを抱き寄せた。
「キス、していい？」
「ん。。。」
わたしの答えを聞くとあなたは、わたしを抱く手に力を入れて、
わたしの唇を奪った。
あなたの熱い舌がわたしの中に入ってくる。
あぁ･･･・
まるで嵐にさらわれたかのように、わたしの中に熱い想いが溢れてくる。
ほんの少し唇を離して、もう一度、でもさっきよりももっと熱く、
抱きしめられて口づけられた。

あなたの気持ちが寄せては返す波のように、動いているのに気づく。
キスしたい、でもしてはいけない、だけど欲しい･･･
あなたの瞳は揺れ動く心を映している。
あなたから離れたとき、わたしの心は孤独に染まった。

薄暗い路地、手を繋いで歩く。
指を絡ませて、あなたが好きだと心で叫ぶ。
二人の歩みはだんだんと遅くなり、立ち止まる。
あなたがわたしを抱き寄せて、
強く強く抱きしめる。
「好きだ。大好きだ。･･･・」
初めてあなたが口にした言葉。
愛の告白。
心が震える。
あなたに手を回し、キスをする。
短い熱いキス。
もっと長く、もっと激しく･･･そう願うけれど、その願いは叶えられない。
熱くて火傷しそうだけれど、短いキス。

忘れられない夜になった。

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