「村を少し、ご案内しましょう。」
私は、まりあさんと土井さんを誘い出した。
どうやら二人は長老たちにも気に入られたらしい。
はてさて、どうしたものか。
もちろん二人がその気であれば、こういうしきたりを受けいれられるのであれば、
問題はないのだが。
昨夜のことは、二人とも余りよく覚えていないに違いない。
ヤツの毒液によって、記憶をほとんど消されているから。
でも。
おそらくあの快感は刻み込まれているはず。
だからこそ。
午前中、あんな時間に、しかもあんな場所(いや我が家の上等な客間ではあるが)で、
人目も憚らずにアンナコトを・・・・。
まぁ、逆に言えば、それが出来るというのは、
おそらくその素質があるのだろう。
まりあさんも土井さんも、
きっと、気に入ってこれからも度々この村を訪ねてくれるだろう。
まずは私がそれをしくじらなければ。
「ここは、この村に古くからある神社です。少し風変わりな神が祀られているんですが。」
私は一旦言葉を切った。
「風変わりな神様?」
まりあさんが小首をかしげて私を見た。
かわいらしい。
肩より少し長い髪が、さらりと揺れて、首筋に隠れていたヤツの噛み跡が露わになる。
「ええ。」
「どんな神様なんですか?」
興味津々といった風情で土井さんが私を見た。
う~ん、どういったものか。まぁ、隠してもしょうがないし。
「・・・実は、吸血鬼なんです。」
「えっ」
「まぁっ」
まりあさんも土井さんも少し驚いた表情を見せる。
しかし、それ以上の反応は・・・・ない。
「この村は、もう古くから吸血鬼と共存している村なのですよ。」
私は淡々とさも当たり前のことのように話し始めた。
二人とも黙ったまま、聞き耳を立てている。
「吸血鬼というと、恐ろしいイメージが先行するものなのですが」
少し冷たい風が吹いた。
「この村では、吸血鬼に見初められるというのは、女性にとって最高の名誉なのです。」
空は澄んだ青空だ。
「もちろん女性だけではなく、その女性の属する一族、全てに名誉なことですが。」
「・・・血を全て吸われてしまうのではないのですか?」
まりあさんが少し恐々と尋ねる。
「いいえ。全て吸ってしまうことはありません。ほんの少しだけ、味わうだけです。」
「死んでしまったりは・・・しないのですか?」
今度は土井さん。
「慣れない吸血鬼の中には、ついつい血を吸いすぎてしまうものもいるようですが、たいていは手慣れた吸血鬼と一緒に最初は行動しますから、度が過ぎるような場合にはちゃんと止めに入ります。」
「そう・・・じゃあ、安心、ですね。」
『安心』?
ほほう、まりあさんは受けいれていますね。土井さんはどうかな?
「うん、命を奪わないって言うのは、うん、安心だね。」
こちらも『安心』ですか。フフフッ、上手くいきそうですよ、このお二人は。
「狙われるのは少女、つまり処女ばかりではありません。」
私がさらに言葉を続けた。
「人妻も老女も、もちろん男性も狙われます。」
「そうなんですか!」
土井さんが自分の頸下をさすりながら言った。
「男性にとっては、自分の妻を吸血鬼に差し出すことが・・・堪らない・・・コホン、栄誉だったりするのですよ。」
私は『快感』と言うべきところを『栄誉』と言い換えた。
まだそれは早すぎるかもしれないと思ったのだ。
「まあ、血を吸われるくらいなら・・・」
土井さんが自分を納得させるように呟いた。
「ええ、まぁ、血を吸われるくらい・・・なのですが。血を吸われると、女性はとてつもない快感を得る・・・ようですね。」
「そうなんですか?」
今度はまりあさん。何となく夢見るような眼差しになっていますな。
もしかして・・・自分もそうなりたいと望んでいるのでは?
覚えていないかもしれませんが、まりあさん。あなたはすでにその毒牙にかかっているのですよ。
「そのようです。・・・通常、人妻が襲われる場合、この村では必ずと言っていいほど、夫が同席します。あ、もちろん、こっそりと覗いているのですが、そのことは妻も吸血鬼も知っているのです。」
「そんな・・・」
まりあさんがほんの少し絶句する。土井さんはさっきから黙ったままですねぇ。
「妻は、吸血鬼におずおずと身を差し出すのですが、吸血鬼が不埒なことをしようとするとそれはもう、抵抗します。貞操の危機ですからね。ところが、吸血鬼は血を吸う一方で、催淫効果のある毒液をほんの少ぉし、流し込むのですね。すると妻は、抗う力を無くし、やがて吸血鬼の意のままに・・・・」
ゴクリ。
喉を鳴らしたのは土井さんだった。
ほほう、これは、これは。
私は心の中で笑みを浮かべた。かなりこの二人、いい感じです。
そこで私は神社の裏手にある古い洋館へと二人を誘った。
古いが豪奢な建物で、ここがヤツの塒になっている。
「このお屋敷は?」
まりあさんがキョロキョロしながら、奥へ奥へと進んでいった。
無防備に見えるが、さっきの私の話ですっかり「自分も・・・」と
その気になっているように思える。
豪華なリビングセットの置いてある部屋に入る。
「まりあさん、そこでくつろいでいてください。」
「柏木さんと土井さんは、どちらへ?」
「この館の主を呼んで参ります。」
私はまりあさんに優しい微笑みを残し、土井さんを連れて部屋を出た。
さてさて、いかなことになりますやら。
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