いつもならば、テレビをつけて、見る当てもなく見ているものを。
今夜はなぜかそんな気分にならない。
蛍光灯の光が網膜を痛くする。
だから。
ベッドサイドの照明だけをつけて。
しかもそれを一番暗くして。
テレビも消して、代わりに音楽をかける。
でも音は小さくて、聞こえるか聞こえないほどで。
地上9階のマンションの窓を開けても。
こんなに夜更けになれば、騒がしさもここまでは届かない。
眠れない夜が時々ある。
起きていて、何をするでもなく、ただぼんやりと暗闇にたたずむだけ。
いつもならば心地よい音楽も、こんな夜はなんの役にも立たない。
それでも音楽を絶やさないのは、何もない夜にはそのまま闇に熔けていきそうだから。
カタン。
ほんの幽かな足音が、彼の到来を知らせる。
来たのね。
本当は待ちわびていたような気がして、思わず口元が緩む。
彼は答えずに、わたしの足首にそっと手を添える。
ひんやりとした手の感触に、間違いなく彼だと確信し、
わたしは彼の求める言葉を吐く。
噛んで。
いいのよ。
ほんの少しだけ、足を差し出す仕草。
彼の指が、くるぶしからふくらはぎへゆったりと進む。
そんな指の動きが少しじれったくて。
何かを探るように太腿まで進んだ指が、ふと止まった。
悪いのか?
大丈夫よ。
無理・・・するな。
気にしないで。
彼の気遣わしげな雰囲気に少しいらだって答えると。
彼はわたしの足をいたぶることを止めたのか、
フッと立ち上がると、背中からそっとわたしを抱きしめた。
一瞬にして、わたしの苛立ちが掻き消される。
甘えたような彼の仕草に。
どうするの?
うって変わって甘い言葉を、彼が遮るように口づけをした。
冷たい唇・・・わたしの熱い吐息で同じように熱くしたい。
いつもと違うのね。
少しからかうように問いかけると。
フフッ
たまには違ってもいいさ。
彼は静かに笑った。
あら・・・じゃあしたくないの?
少しへそを曲げて、尖った口調で咎めると
フフッ
困ったように今度は笑って。
そんなこと言ってないだろう。
先ほどよりも少しだけ強く、少しだけ強引に、
わたしのことを抱き寄せて。
それから熱くなっていくわたしの身体をそっと冷やすかのように。
その冷たい身体をぴったりと寄り添わせて。
絨毯の上で。
一つになって。
ねぇ、どうするの?
甘えるように、ねだるように、わたしがささやくのを。
彼はもう何もしゃべらせるものかと、唇をふさぐ。
塞がれた唇の舌で、漏れない喘ぎ声を上げながら。
それでもわたしの身体はぐんぐん熱くなり。
やがてさっきまでの憂鬱な気分はどこへやら。
彼に合わせるように腰を激しく蠢かし。
二人の夜はいつまでも明けない。
テーマ : 女が書く官能小説
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